JOJO広重さんのブログ。
とつとつと話していく姿が思い起こされ面白い。
以下コピペ。
京都の大学を卒業した年、私は東京に引っ越した。
友人と会社のようなものを立ち上げることになり、ろくな目論見もないまま新生活をスタートした。友人との会社ごっこはうまくいったり、いかなかったりをくりかえしていた。大学時代に好きだった女の子とは遠距離となってしまい、やがて別れてしまった。
翌年、友人との会社はひょんなことから事業が起動にのり、そこそこの売上げをあげ、そこそこの給料をもらえるようになった。私は東京に移ってから知り合った、美大に通う大学生の女の子と門前仲町のマンションで半同棲のような生活を送っていた。そこはワンルームでせまかったこともあり、まとまったお金もあったことから目黒の駅前に近いアパートに引っ越した。
その頃私の仕事場は渋谷にあり、目黒からはJRで通えるので便利だった。彼女は目黒からだと大学に通学するには1時間ほどかかったはずだが、文句も言わず、学校が終わると私の住むこのアパートに帰ってきていた。ふたりでマルイの家具館でダイニングテーブル、食器棚、ベッド、鏡台などを買いそろえ、23才と21才の同棲生活が始まった。
目黒にある大きな結婚式場の裏手に建っていたそのアパートは、やや高台にある形になっていて、天気がいい日は西側の窓をあけると遠くに富士山が見えた。間取りの都合から室内に洗濯機を設置するスペースがなく、ベランダに洗濯機をおいていたのを覚えている。
秋だったろうか。いや、コートを着ていたので冬だったと思う。
私は仕事から少し早い時間に帰宅していた。大学に通う彼女が帰宅するにはまだ少し時間がある。普段なら家でテレビでも見てゴロゴロしているのだが、その日はなんだか彼女のことを駅まで迎えにいこうと思った。理由は思い出せない。いや、きっと理由などなかった。彼女のご機嫌をとろうとか、喜ばせようとか、そういう意識すらなかったように思う。
その頃のJR目黒駅の改札は2カ所だったが、家に近いほうの改札から彼女が出てくるだろうと思っていた。夜の7時頃、会社帰りのサラリーマンや学生などがどんどん改札から吐き出されてくる。流れる人混みをずっと見つめていた。
彼女を探して30分くらい待っただろうか。黒いポンチョのような形のコートを着た彼女が改札から出てきた。彼女は私が待っているとは思っていないので、そのまま家路の方向に進もうとするその一瞬、人混みの中の私を見つけた。
『あれえ!?どうしたの?』
『いやあ、もうそろそろ帰って来る頃かなあと思って、待ってたんだ』
彼女の顔がパーっと笑顔になった。
駅から自宅まで、徒歩で150mくらいだろうか。
歩いているうちに彼女は珍しく私の腕に手をまわしてきた。
ニコニコして私の身体に自分の体をぴったりと寄せてくる。
彼女の気分が高揚しているのが、その体温を通して伝わってくる。
本当に嬉しそうな彼女のその顔は、実際は夜道が暗くてよくは見えなかったはずだけれど、どういうわけか今でも鮮明に覚えている。
彼女は普段はサバサバしていて、そもそもそんなにベタベタするほうではない女性だった。
だからというわけでもないが、普段から彼女に腕に手をまわしてもらって歩いた記憶はほとんどない。
もしかしたら、つきあっている時間の中で、あの目黒の夜の1回だけの出来事だったのかもしれない。
もうあれから30年近い歳月がたった。
ここ何年かの記憶をたどっても、やっぱり腕に手をまわしてもらった記憶はない。
ただ、彼女は今でも私の妻である。